学部発展科目「比較政治」
(一橋大学)


[ 授業概要 ]

 現代の先進諸国の政治を「福祉国家」を軸に比較考察します。20世紀に先進諸国に広く受け入れられた福祉国家は、1980年以降大きな再編のただ中にあります。その背景として、グローバル化など共通の要因が指摘される一方で、具体的な再編のあり方は国ごとに多様です。この講義では、自由主義モデルのイギリス、社会民主主義モデルのスウェーデン、保守主義モデルのフランス、日本という四つの代表国をとりあげ、(1)雇用、福祉、家族、グローバル化への対応をめぐる政策の違い、(2)各国の違いをもたらしている政治的要因を検討します。これらの知見を踏まえて、将来の日本にどのような選択肢や展望がありうるのかを考えたいと思います。


[ 到達目標と方法 ]

 この講義の目的は、雇用、社会保障、家族のあり方など、我々の日常生活と密接にかかわる事柄が、どれほど「政治」によって左右されているのかを認識したうえで、将来の方向性を自ら選択し、政治に主体的に関われるようになることです。

 具体的には、次の三点を到達目標とします。
(1)先進諸国の戦後政治経済体制の基本構造を理解し、それが1970年代から今日にかけて、どう変化しつつあるのか、先進国がどのような共通の課題に直面しているのかを説明できるようになること。
(2)各国の対応がなぜ異なってきたのかを、比較政治学の道具を用いて説明できること。
(3)日本の将来の選択肢について、自分なりの意見を持ち、その根拠を説明できるようになること。

 毎回レジュメを配布し、パワーポイントを用いて講義を行ないます。
 履修者の参加を促し、一方通行の講義としないため、リーディング・アサインメントと討議事項を適時用意し、講義の中で学生同士の討議の時間を組み込みます。また講義時間内に小レポート(講義内容にかんする知識の確認、質問、コメント)を3回実施し、次の講義でフィードバックするとともに、講義の進度を調整します。


[ 授業計画 ]

 以下の項目をできるかぎり各1回で扱います。

  T 戦後政治経済体制の形成
    (1)戦後の政治経済体制
    (2)戦後福祉レジームの三類型@
    (3)戦後福祉レジームの三類型A
    (4)戦後日本の福祉レジーム

  U 戦後政治経済体制の転換
    (5)1970年代の構造転換
    (6)新自由主義的改革 ― イギリス
    (7)社会民主主義の刷新 ― スウェーデン
    (8)連帯の模索 ― フランス
    (9)日本の停滞

  V 課題と展望
    (10)グローバル化のインパクト
    (11)少子高齢化への対応
    (12)労働社会のゆくえ
    (13)環境政治
    (14)まとめ


[ 他の科目との関連 ]

 基礎科目「政治学」の内容を踏まえ、より諸外国の政治に焦点をあわせた発展的な内容とします。
 「政治と社会」、「政治史」、「政治過程論」とは補完的な関係があり、これらを受講することで政治学を体系的に学ぶことができます。また「福祉政策論」「社会政策」とも関係があります。


[ 成績評価の方法 ]

 小レポート30%、学期末試験70%による相対評価。
 小レポートは、講義内容を踏まえていれば、一回の提出につき10点とします。学期末試験は、基本的な語句説明と、各自の考えを展開する論述問題とします。


[ 成績評価基準の内容 ]

 到達目標にしたがって、(1)戦後政治経済体制の特徴と転換、(2)各国の政策の分岐をもたらした政治的要因、(3)比較政治からみた日本の特徴、という三点を説明できれば合格とします。さらに各自でより深い知識を得たか、自らの考えを具体的・論理的に展開できているかに応じて加点します。


[ テキスト・参考文献 ]

 リーディング・アサインメント(10-20頁)を指定し、ホームページからダウンロードできるようにします。主なものは以下のとおり。
  新川敏光、井戸正伸、宮本太郎、眞柄秀子『比較政治経済学』有斐閣アルマ、2004年。
  宮本太郎『福祉政治』有斐閣、2008年。
  エスピン・アンデルセン『福祉資本主義の三つの世界』ミネルヴァ書房、2000年。
  宮本太郎編著『福祉国家再編の政治』ミネルヴァ書房、2002年。
  新川敏光『日本型福祉レジームの発展と変容』ミネルヴァ書房、2005年。


 その他の参考文献は以下を参照

→ 比較政治参考文献リスト